「列車はタイムマシン」-ナポリの知られざる古代遺跡めぐり
ナポリ近郊を走る列車に乗れば、2000年前のローマ帝国の暮らしが目の前に蘇る。観光客でにぎわう有名遺跡ではなく、ひっそりとたたずむ「隠れた古代遺跡」を訪ねる旅。
公開日時: 2026年8月25日 7:03 · 更新: 2026年9月27日 22:48
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ナポリの中心部、地下鉄に乗り換えるために走る人々の合間を縫って、私はこぢんまりとした私鉄の駅へ向かう。そこには、少しくたびれた車両がホームで待っている。地元の通勤客でにぎわうその列車は、観光ガイドにはあまり載っていないが、私にとっては何より魅力的な「タイムマシン」なのだ。
チルクムヴェスヴィアーナ鉄道がつなぐ古代への扉
ナポリ中央駅からソレントまでを結ぶチルクムヴェスヴィアーナ鉄道。19世紀末に開通したこの私鉄は、まさに時間の層を縫うように走っている。車窓の外には、にわか雨に濡れた路地や、洗濯物を干すバルコニーが過ぎ去り、やがて田園風景が広がる。その先には、紀元79年のヴェスヴィオ山大噴火によって一瞬にして埋もれた古代都市の数々が眠っているのだ。
多くの観光客は、この路線でポンペイやエルコラーノの駅に殺到する。だが、少し目の付け所を変えれば、ひっそりとたたずむ「隠れた古代遺跡」に出会える。私が初めてその列車に乗ったとき、ガイドブックには載っていない駅名に惹かれて、ふらりと途中下車したのがすべての始まりだった。
オプロンティス-「もう一つのポンペイ」
トッレ・アンヌンツィアータ駅で下車すると、そこは騒がしい町の中心。しかし、路地を少し入ったところに、オプロンティス遺跡はひっそりと口を開けている。かつてネロ皇帝の妻ポッパエアの所有とされるこの豪華なヴィラは、火山灰に覆われてほぼ完全な姿で残っていた。特に圧巻なのは、鮮やかな赤や緑が今も息づくフレスコ画の数々。ポンペイの混雑とは無縁で、貸し切りのように鑑賞できるのは贅沢の極みだ。
その場所に立つと、まるで2000年前の住人が、庭でオリーブを摘んでいたところへタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。空気の匂いまで変わった気がするのだから不思議だ。
スタビアエ-海を見下ろす貴族の別荘群
さらに列車を進めると、スタビアエの駅がある。ここは古代ローマの富裕層がこぞって海辺の別荘を建てた高級リゾート地だった。現在、発掘調査が進行中で、見学できるのは一部だが、そこから望むナポリ湾の景色は、古代人たちが見たものと少しも変わっていない。
特に素晴らしいのは、壁一面に描かれた幻想的な庭園のフレスコ画だ。鳥がさえずり、花が咲き乱れるその絵は、まるで窓から本物の庭を眺めているかのよう。当時の人々が「ここが楽園だ」と信じて疑わなかったのも頷ける。
ナポリの地下に広がるもう一つの世界
チルクムヴェスヴィアーナ鉄道は、遺跡巡りだけのためのものではない。ナポリ市内に戻れば、今度は地下へと向かう「タイムトラベル」が待っている。ナポリの地下には、古代ギリシャ時代の採石場や水道施設が迷宮のように張り巡らされ、後にローマ人が貯水池や神殿として転用した痕跡が残されているのだ。
地下遺跡ツアーに参加すると、まるで考古学者になった気分で、街の真下にある古代都市ネアポリスの痕跡をたどることができる。地上の喧騒が嘘のように静まり返った地下空間で、私はふと「時は流れるのではなく、積み重なるのだ」ということを実感する。
旅のヒント
この「タイムマシン旅行」を満喫するには、まずナポリ中央駅の地下にあるチルクムヴェスヴィアーナ線の切符売り場へ。日帰りフリーパスもあり、気軽に乗り降りできる。ただし、車両は決して新しいとは言えないので、多少の揺れは覚悟してほしい。それでも、窓から見える風景と、降り立つ先で出会う古代の驚異は、その所有感を十分に補ってくれる。
列車を降りるたび、時計の針は約2000年ほど巻き戻される。ナポリのこの体験は、ただの観光ではなく、歴史の肌触りを確かめる旅なのだ。あなたも、この小さな私鉄の車両に飛び乗ってみてはいかがだろうか。きっと「私だけの時間旅行」が始まるはずだ。
Full stack 技術者